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1-19 侵入者 3

last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-01 20:04:32

ガラガラガラガラ……

シャッターを閉める音が店内に鳴り響く。

千尋は鍵をかけると中島が声をかけてきた。

「それじゃ帰ろうか? あ……でも何か買い物ある? スーパーに寄る?」

「でも……ご迷惑じゃ……」

ヤマトのリードを握りしめる千尋。

「私もね、スーパーで買いたいものがあるんだ。今日はね、フライのお惣菜の特売日なのよ! しかも広告が入ってたんだけど、新商品の発泡酒が発売されたから、買って試してみたくて」

中島は千尋と違い、料理はあまり得意ではない。もっぱら、コンビニ弁当かスーパーの弁当、総菜と言う食生活だ。

本当は外で飲んで帰りたいけど、車で来てるからね。

……と言うのが、もはや口癖となっていた。

「それじゃ、お願いします」

「気にしなくていいって。じゃ、今店の前に車回してくるわね」

中島が車を取りに行くと千尋はヤマトの前にしゃがみ、頭を撫でなた。

「皆、私を心配してくれていい人ばかりだよね。で……も本当に誰なんだろう。お爺ちゃんもいないあの家に1人きりなのはやっぱり怖いよ。ヤマト、絶対に私の側から離れないでくれる?」

ヤマトは千尋の目をじっと見つめながら黙って聞いていた。

「お待たせー」

ワンボックスカーに乗った中島が戻ってきて窓を開けて手を振る。

「青山さんは助手席に座って。ヤマトは…‥後部座席でいいかな?」

「はい、それで大丈夫です」

「うん、じゃあ乗って乗って」

****

 車で走る事、約10分。

大型スーパーに到着するとヤマトを車に残し、2人のショッピングが始まった。

「あの、店長さえ良ければ私の家で一緒に食事しませんか?」

ショッピングカートを押しながら千尋は中島に尋ねた。

「え? お邪魔していいのかしら?」

「はい、むしろ一人になるのは……ちょっと……」

最後の言葉がしりすぼみになってしまった。

「うん、それじゃ決まりね」

 それから約40分後、食材やらお惣菜を大量に買い込んだ2人が車に戻ると、待ちくたびれたのかヤマトが眠っていた。

「あらま、眠ってるね」

「はい、家に着いたら起こすのでこのまま寝かせておいて貰えますか?」

「勿論かまわないけど、それじゃ行きますか」

****

  家に到着すると、千尋はすぐにヤマトを起こして家に入らせた。

「お邪魔します……。わあ~すごく綺麗にしてるのね。青山さんの家に比べたら、私なんて汚部屋暮らしかも」

中島は感心
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    「あ……」渚は咄嗟に身を翻して逃げようとした。「おい! 待てよ!」茶髪の若い男はあっという間に渚の腕を掴んで捕まえた。「何で逃げようとするんだよ。半年以上も行方をくらましておいて。俺が今までどれ位お前のこと探し回ったのか分かってるのか? スマホも繋がらない、アパートに行っても解約されていたし」渚は俯いたまま黙っている。茶髪の男はため息をついた。「おい、ちょっと顔かせよ」そして渚の腕を掴んだまま歩き出した。****  渚と茶髪の男はファミレスの椅子に向かい合って座っていた。冷えて生ぬるくなったコーヒーが2つテーブルに置かれている。渚はテーブルの下で両手を握りしめて俯いていた。男は腕組みをして渚を睨んだ。「おい、渚。何とか言えよ。さっきから黙ってばかりで。お前、もしかして俺のこと忘れちまったのか?いや、そんなはずないよな? 俺を見て逃げ出そうとしたんだから」それでも渚は黙っている。「う~ん。どうもさっきから変な感じがするんだよな……。俺の知ってる以前のお前と今のお前、全く雰囲気が違って見えるんだが……。お前、渚に変装した偽物か?」「偽物じゃ……ないよ」ようやく渚は口を開いた。「偽物じゃ無いって言うなら俺の名前言えるはずだ。俺の名前は?」「橘……祐樹」「言えるなら、渚で間違いないかもな。だけどな! 絶対お前おかしいぞ? そんなキャラじゃ無かっただろう? なんかビクビクしてるし、本来のお前は喧嘩っ早くて血の気の多い男だったじゃないか。目つきだって凄く悪かったぞ?」「実は僕は……一部記憶が無くなってしまったんだ。どうして記憶を無くしたのかも覚えてなくて」声を振り絞るように渚は言った。「はああ? 僕だあ!? やめてくれよ! お前から僕なんて言葉を聞くと鳥肌が立ってくる!」祐樹は両肩を押さえて震えた。「ごめん……」「だ~から! そんな言葉遣いするんじゃねえ!」祐樹はドン! とテーブルを叩いた。「もう、この話し方が身について今更変えられないよ……」「あ~っ! もういい! 大体お前記憶が欠けてるんだもんな。仕方が無いか」祐樹はため息をついた。「あれ? そういやお前、あの事件がきっかけで仕事辞めたんだよな? それで部屋も引き払ったのか?」「う、うん。まあそんなところかな?」「じゃあ、今は何処に住んでるんだよ?」「知り合

  • 君が目覚めるまではそばにいさせて   3-6 渚を知る男 3

     運ばれてきた料理を3人で食べると千尋は帰って行った。「今日は悪かったな? 今度は二人きりで食事出来るといいな?」職場に戻りながら近藤が里中に声をかける。「何言ってるんすか? 先輩が気を利かせてあの場から居なくなってしまえば二人で食事出来たのに」「ひっでえなあ、それが先輩に対する口の利き方かあ?」わざとお道化たように話す近藤を里中は苦笑いしながら見ていた。**** その後――千尋と渚は約束通り、二人が休みの日は色々な場所へと出掛けた。動物園、映画、遊園地、ドライブ……渚が行ってみたいと言っていたありとあらゆる場所へと足を運んだ。渚は始終楽し気にしていたが、何故か寂しげに見える姿が増えてきた。けれど千尋はそのことには一切触れなかった。(きっと時がたてば、渚君の方から話してくれるはず……)そう信じて疑わなかったのである。 ――2月のある日のこと「ねえ、渚君。今日はお休みでしょう? 私は仕事だけど何か予定あるの?」千尋が朝食を食べながら尋ねた。「え? うううん。特には無いよ。しいて言えば……家電製品でも見てこようかなと思ってる」「何か買いたい家電製品あるの?」「うん、ブレンダーかミキサーでもあれば便利かなって。あ、でも買うかどうかはまだ未定だけどね」「そうなんだ。良いのが見つかるといいね」「そうだね……」渚は曖昧に笑った。 仕事のない日はいつもそうしているように渚は千尋を店の前まで見送った。「それじゃ、仕事頑張ってね。今夜のメニュー楽しみにしておいてね」「ありがとう、それじゃまた後でね」千尋は笑顔で手を振ると通用口から店へ入っていく。その姿を見送ると渚は駅へ向かった——**** バスを乗り継ぎ、渚は市内一大きな総合病院の前に立っていた。千尋が編んでくれたマフラーで口元を隠し、帽子を目深に被ると渚は病院の中へと入って行った。渚は入院病棟に来ていた。辺りを見渡し、人がいないのを見計らうと個室の病室へと入って行く。その個室には若い男性が眠り続けていた。ベッドの柵に取り付けられているネーム札には年齢も名前も記入がされていない。「……」拳を握りしめ、黙ってその患者を見下ろしていると、こちらに向かって歩いてくる足音が聞こえた。「!」慌ててロッカールームに入って、隠れる。けれど足音は遠ざかって行った。入り口に耳を付け

  • 君が目覚めるまではそばにいさせて   3-5 渚を知る男 2

     それから暫くして千尋がリハビリステーションにやってきた。野口と新年の挨拶を交わしている。丁度手が空いていた里中は主任が去り、千尋が一人になると近づいた。「おはよう、千尋さん」「あ、おはようございます。里中さん、新年明けましておめでとうございます」千尋は頭を下げた。「あ、そうだったね。明けましておめでとう」里中も頭を下げた。「あの……千尋さん」「はい、何でしょう?」「実はこれなんだけど……」里中はポケットから紙袋を取り出した。「?」「俺、年末年始里帰りしていて千尋さんにお土産を買って来たんだ。もし良かったら受け取ってもらえないかな?」そして千尋に紙袋を手渡した。「私にですか?」里中は黙って頷いた。「今見ても?」「ど、どうぞ」中から出て来たのは色鮮やかなパワーストーンのブレスレットだった。千尋は目を見張った。「うわあ……綺麗。でも、こんな高価なもの頂くわけにはいきません」「あ、見た目は高そうに見えるけど、そんなんじゃないから。遠慮しないで受け取ってよ。ただのお土産なんだから」ハハハ……と笑うが、本当は気軽に渡せるような金額では無かった。(く~っ。今月は食費削らないとな……。だけど千尋さんの喜ぶ姿を見れたからいいか)「里中さん。お礼に今日のお昼ご飯、ここのレストランでご馳走させて下さい」「い、いや、何言ってるんっすか! 女の人に男がご馳走してもらなんて変ですって!」「でも、それじゃ私の気が済まないんです」千尋は食い下がる。(でも昼飯代浮くし、何より千尋さんと一緒に食べる事が出来るなら……)「それじゃ……よろしく」里中は照れくさそうに笑った——****「――で、何で先輩までここにいる訳ですか?」里中は面白くなさそうに近藤を見た。「まあまあ、そう言うなって。俺は先にここに来ていた、そしてお前たちがやってきた」近藤は得意げに言う。「はあ」里中は興味なさげに返事をする。「そして生憎、満席。けれど、俺が座っているテーブルは偶然にも2つ席が空いていた。そこで、二人をこの席に呼んだと言う訳だ」「ありがとうございます、近藤さんのお陰で席を確保する事が出来ました」千尋は嬉しそうに礼を述べる。「チエッ」里中は誰にも聞こえない様に小さな声で舌打ちをした。折角二人で食事が出来ると思ったのに、これでは何の意味も無

  • 君が目覚めるまではそばにいさせて   3-4 渚を知る男 1

     翌朝――渚と千尋は向かい合って朝食を食べていた。今朝の渚はいつもと全く変わりが無い様子だった。(一体、昨夜はなんだったのかな……?)「何? 千尋。さっきから僕のこと見てるけど」千尋の視線が気になったのか渚が話しかけてきた。「あ、何でもないの」「そう? 今朝の千尋はいつもと違う感じがするからさ」「あの……ね、渚君」「何?」「昨夜のことなんだけど……」「うん。あ、ごめんね。結局千尋に片付けさせちゃって」「すぐ眠れたの?」「勿論、日本酒を飲んだからかな~昨夜は眠たくてすぐに寝ちゃったよ」(やっぱり覚えていないんだ)千尋は心の中で思った。「え? 昨夜僕何かやっちゃった? 何も覚えていないんだけど……」「大丈夫、別に何も無かったから。ただ、今日から仕事初めだったから良く眠れたかなって思って」「千尋はよく寝れた?」「うん、寝たよ」本当は昨夜のことが気になって、あまり眠れなかったが伏せておいた。「ねえ、千尋」食後のコーヒーを飲みながら渚が尋ねてきた。「何?」「これからはさ、二人の休みが合う時は色々な場所へ一緒に出掛けたいんだ。駄目……かな?」「駄目なわけないじゃない。うん、一緒に出掛けよう」「良かった~。ありがとう」渚は子供の様に無邪気に笑みを浮かべた。そんな様子を千尋は黙って見つめていた――****「おはようございます!」千尋は元気よく出勤してきた。店には早番の中島と原が既に出勤している。「おはようございます。青山さん」ほうきで店の外掃除をしていた原が挨拶を返した。「おはよう、青山さん」切り花の世話をしていた中島も挨拶してくる。「青山さん、新年早々だけど今日は山手総合病院に行く日よね。道路の渋滞情報が出ていたから早めに出たほうがいいわよ」「ありがとうございます、それじゃ早めに準備して行きますね」****山手総合病院――患者のマッサージを終えた里中がポケットから小さな紙袋を取り出して、ため息をついた。「お? 里中、それ一体何だ?」近藤が目ざとく見つけ、背後から声をかけて来た。「べ、別に何でもないですよ」里中は顔を赤らめながら急いでポケットにしまおうとするが、近藤に奪われてしまう。「か、返してくださいよ!」「へえ~山梨県の土産の袋か。……そういや、お前の実家って山梨だったよな? 年末里帰りし

  • 君が目覚めるまではそばにいさせて   3-3 記憶の中に眠る恐怖 3

    渚が仕込んだ味噌味の海鮮鍋は最高の味だった。「やっぱり渚君が作った料理は最高だね。流石調理師免許持ってるだけのことはあるね」千尋は鍋料理を笑顔で食べている。「ありがとう。千尋が選んだ日本酒も美味しいね~」「フッフッフッ。この日本酒はね、東北地方にある蔵元が作った日本酒なの。フルーティーで、とても日本酒とは思えない口当たりの良いお酒なんだよ。若い女性の間で大人気なんですって。だからついつい飲み過ぎちゃうんだけど」「ははは……。千尋は本当にお酒が好きなんだね。でも明日から仕事なんだからあまり飲み過ぎない方がいいよ?」「そうだね、また今度一緒に飲もうね。この先いつでも飲めるんだもの」「この先いつでも……か」一瞬渚の顔に影が差した。「どうしたの?」「ううん、何でもないよ。温かいうちに食べてしまおう?」 ****——食後「ほら、渚君はもう今夜は休んで」「でも片付けは僕がやるよ」「何言ってるの? 今日海で具合が悪くなったでしょう? 私がやるから大丈夫だってば」 食事が済んだあと、片付けをすると言って聞かない渚を千尋は無理に部屋に追いやった。渚は最後まで自分がやると言って聞かなかったが、やはり体調がまだ優れないのか最終的には千尋の言うことを聞いて部屋に戻って行った。「そうだ、どうせなら洗濯もしちゃおう」以前録画しておいたドラマを観ながら千尋は洗濯機を回した。  それから約1時間後、洗濯を干し終えた千尋が自分の部屋へ戻ろうとしたその時。「う……うう……」渚が使っている部屋から苦しそうな呻き声が聞こえてきた。「え? 渚君?」(もしかして具合でも悪いのかな?)「渚君、大丈夫?」声をかけてみたが返事は無い。それでも苦しそうな渚の声が聞こえる。「渚君、入るね」千尋は引き戸を開けた。中へ入ると渚はベッドの上で酷くうなされている。「渚君! しっかりして!」千尋は渚の枕元に行くと声をかけた。渚は苦しそうに寝言を言っている。「い……嫌だ……。助けて……」「渚君!」千尋は必死で渚を揺さぶった。その時である。「ハアッ……ハアッ……!」渚が突然目を開けて千尋を見た。そして一瞬泣きそうに顔を歪めるとベッドに横たわったまま千尋を腕の中に抱き込んだ。「キャアッ!」千尋は渚の身体の上に乗るような形になってしまった。「な、渚君……?

  • 君が目覚めるまではそばにいさせて   3-2 記憶の中に眠る恐怖 2

     念の為にと持参していたシートに並んで座りながら二人は海を見ていた。真冬の海なので、人の姿はない。真っ青な水平線の海は青空の下、良く映えた。「渚君、冬の海って何だか綺麗に見えない?」風に吹かれた髪の毛を押さえながら千尋は渚に尋ねた。「そうだね。人もいないからゴミも無いし。だから余計に綺麗なんだろうね」「渚君の両親て、海が好きな人だったんじゃない? だって『渚』って名前付ける位なんだから」「さあ、どうなんだろう? 僕にはよく分からなくて……」渚は曖昧に返事をしたが、顔が強張っている。「渚君? どうしたの?」「え? 何が?」「何だか顔色が悪いみたいに見えるけど……?」「そんな事、無いよ……」渚は笑みを浮かべたが顔は青ざめている。「もしかして具合が悪いの? もう帰ろうか?」「うん……ごめんね。千尋」渚は何とか立ち上がったが足元がふらついている。「く……」額には汗が滲んでいた。「ねえ、渚君。無理しないで、少しここで休んでいこうよ?」すると渚は子供の様に頭を振った。「嫌だ……。この場所から離れたい……」「……分かった。それじゃ私に掴まって?」千尋は渚の大きな身体を何とか支えながら海から遠ざかっていく内に少しずつ渚の顔色が良くなってきた。****「大丈夫?」渚を休ませる為に近くのファストフード店に入ると千尋は心配して尋ねた。「ごめんね……千尋。折角二人で楽しもうと思ってたのに」「渚君……。ひょっとして……」海が怖いの? 千尋はそう尋ねたかったが、言葉を飲み込んだ。ようやく体調が良くなったのに、余計な話をして再び渚の体調を悪くさせるにはいけない。「何?」コーヒーの入った紙コップを手に渚は返事をした。「うううん、何でもない。コーヒー飲んだら帰りましょ?」「そうだね。明日からお互い仕事だしね。今夜の食事は何にしようかな……」「今夜も夜は冷えそうだから、お鍋なんてどう?」「それはいいねー。千尋はどんな鍋が好き?」「鍋料理は何でも好きだよ? 渚君は?」「それじゃ、今夜は海鮮鍋にしよう。帰りに駅前のスーパーで材料買って帰らないとね」  その後二人は再び電車を乗り継ぎ、地元スーパーで海鮮鍋の材料を買い込んで帰路に着いた——**** 二人で並んで台所に立ち、鍋の準備をしている。そんな渚を千尋は横目で見てみると、鼻

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